なぜ今EV・PHVなのか
ここでは、なぜ世界中がEVに注目しているのか、なぜEVなのか、について考えてみましょう。
いつまでもエンジンには頼れない
世界中がEVに注目する最大の理由が「地球温暖化」と「ピークオイル」という2つの社会問題です。 この2つの社会問題に直面し、これまで通りのエンジン自動車を将来にわたって使い続けることが非常に困難であることを世界中の企業が認め、その先にあるEV社会を目指し始めたのだと言えるでしょう。
地球温暖化
石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やすと大量の二酸化炭素(CO2)が発生します。このCO2によって、まるで温室のように太陽の熱で地球が温められ、地球全体の平均気温が上昇しています。これが地球温暖化と言われる問題です。
この100年間で既に地球全体の平均気温は0.74℃上昇したと言われており、さらにあと1℃(1900年比で2℃くらい)上昇してしまうと、人類全体が甚大な被害を受ける可能性が高いとされており、そうなる前に手を打たなければなりません。
そのため、世界各国が集まって話し合い、「先進国全体の温室効果ガスの合計排出量を1990年に比べて少なくとも 5%削減すること」を目標としました。
自動車はガソリンや軽油などの化石燃料を燃やして走ります。当然、大量のCO2を排出しています。そのため、欧州や米国カリフォルニア州を皮切りに、世界各国で自動車のCO2排出規制が年々厳しくなっています。
このような事情もあり、世界の自動車メーカーはこぞって、走行中にまったくCO2を排出しないEVの開発に取り組んでいるのです。
コラム:世界のCO2排出規制
欧州では2012年までに、欧州の測定基準で120gCO2/km(ガソリン車で燃費19.3km/Lに相当)、2020年には95gCO2/km(ガソリン車で燃費24.2km/Lに相当)という厳しい規制が待ち受けていて、これに違反すると罰金が科せられます。
米カリフォルニア州では排出規制に加え、2012年からZEV規制で一定台数以上のEV・PHVの販売を義務付けており、こちらも違反すると罰金が科せられます。なお、今後カリフォルニア州の規制は全米各州に広がると見られています。
EVのCO2排出量
EVは走行中にCO2を排出しませんが、使用する電気を作る(発電する)時にCO2が排出されます。
しかし、火力発電所は自動車のエンジンよりもエネルギー効率が高いですし、水力発電や原子力発電、風力発電などのCO2を排出しない発電方法もあるため、総合的にCO2排出量は少なくなります。
同じ距離を走った場合のWell to Wheel(一次エネルギーの採掘から車両走行まで)のCO2排出量を比べると、EVのCO2排出量はガソリン自動車の3分の1程度です(ただし、走行条件や、地域の電力の電源構成によっても変動します)。
今後、自然エネルギーの普及が進めば、EVのCO2排出量はどんどん少なくなります。
※JHFCプロジェクトとは、「水素・燃料電池実証プロジェクト(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project)」の略であり、経済産業省が実施した燃料電池システム等実証試験研究補助事業に含まれる「燃料電池自動車等実証研究」と「水素インフラ等実証研究」から構成されるプロジェクト(平成14年度~平成22年度)を示します。
コラム:自然エネルギーに取り組む自動車メーカー
自動車メーカーでは、「ゼロエミッション(CO2を出さない)」なEV社会の実現を目指し、各工場に積極的に太陽光パネルを設置するなど、自然エネルギーの導入にも取り組んでいます。
さらに、太陽光発電とバッテリーを組み合わせたEV充電システムの実証実験や、自然エネルギー時代の電力インフラに欠かせない蓄電システムの研究開発などが行われています。
その他、CIGS型薄膜太陽光パネルの生産販売を開始しているメーカーや、太陽光発電関連企業へ多額の投資を行っている海外メーカーなど、自然エネルギーの普及に向けた自動車メーカーの動きが注目されます。
参考情報:
太陽光で電気自動車を充電(日産自動車)
ピークオイル
石油は地下資源ですので、汲み出し続ければいつかは無くなってしまいます。中国やインドなどの新興国の需要増大により、石油の生産量は増え続けてきましたが、それに伴って急速に地下の石油量が減少しています。そのうち生産量が減少を始め、やがて枯渇します。このような生産量の頭打ちをピークオイル、と言います。
国際エネルギー機関(IEA)は、「在来型石油の生産量が2006年にピークを迎えた可能性が高い」と2010年11月に発表しました。
参考情報:
ピークオイル詳細解説(環境goo)
従来の安い石油が不足することで、これまでは生産コストが高くて利用されていなかった「採算性の悪い石油」(非在来型石油、未開発油田など)も利用されるようになります。なので、すぐに石油が使えなくなるわけではありませんが、もう二度と「安い石油」の時代に戻れないことだけは確かです。
ここ数年の石油の価格上昇は一時的なものではなく、今後継続して上昇を続けるであろうことを意味しています。
このように、今後の石油には「価格が上昇を続ける」、「必要な量を確保できなくなる」という大きな問題が待ち構えています。近い将来、エンジン自動車を使い続けることはとても難しくなるでしょう。
エネルギー供給の将来的な安定性を考えると、エンジン自動車には石油以外だとバイオ燃料などごく限られた選択肢しか存在しません。一方EVでは、電気を作る手段として現時点で実用化されているものだけでも、天然ガス、石炭、原子力、水力、太陽光・熱、風力、地熱など多様な選択肢が用意されています。
EVの方が、今後の社会で有利であることは間違いないでしょう。
参考情報:
エネルギー価格の見通しについて(経済産業省)
コラム:未来の博物館では…
100年前の電気自動車(ベイカーエレクトリックなど)が博物館に展示されているように、100年後の未来には、エンジン自動車が博物館に展示されているかも知れません。 そこではこんな会話が交わされていることでしょう。
父「これはエンジン自動車と言ってね、石油から作った燃料を燃やして動く自動車だよ」
子供「えー!!石油ってあの石油?あんな貴重なものを燃やしてたなんて、どんだけ贅沢なんだ!」
父「昔は石油がジャブジャブ湧き出ていたからね、貴重品じゃなかったんだよ。ミネラルウォーターよりも安かったそうだよ」
コラム:炭素税(環境税)
地球温暖化の原因である化石燃料に税金をかけることで、その使用量削減や関連技術開発を促すことができます。これを炭素税とか環境税と呼びます。
欧州を中心に先進各国で導入されており、CO2削減のみならず、自然エネルギー導入の増加など、大きな効果を発揮しています。 日本でも2004年に環境税の導入が検討されましたが、産業界の強い反発や、原油価格高騰が重なり、導入が見送られました。
エンジン自動車の現状
運輸部門のCO2排出量
エンジン自動車がどれだけCO2を排出しているのかをデータで見てみましょう。
日本のCO2排出量に占める自動車のCO2排出量の割合(2009年度確定値)
乗用車(自家用、タクシー)から排出されるCO2が、全体の10%を占めています。トラックやバスなどを含む自動車全般だと、全体の17.6%になります。
北海道のCO2排出量に占める自動車のCO2排出量の割合
北海道でも自動車関連の排出量は全国平均と同様に、乗用車で全体の10%を占めており、貨物自動車も含めると17%になります。北海道では航空、船舶の割合が全国平均よりも高いという特徴が見られます。
一人当たり1km当たりのCO2排出量
乗用車は少人数で移動するため、一人当たりのCO2排出量が他の乗り物に比べて非常に多いことがわかります。
石油の使用
エンジン自動車がどれくらい石油を使用しているのかをデータで見てみましょう。
日本の石油需要量に占める自動車燃料の割合
全体の3割以上が自動車の燃料として利用されていることがわかります。
自動車燃料を通じて海外へ流出する金額
2008年のデータによると、年間1,550億ドルの原油が輸入されていますので、自動車の燃料費のために海外へおおよそ550億ドル(2008年当時で約5兆7千億円)が支払われていることになります。
EVの可能性
このように、社会は望むと望まざるとに関わらず、必然的にEV化していきます。 社会にEVが普及することで、どのような変化がもたらされるのか。ここではその可能性についてご紹介いたします。
脱石油の効果
EVではガソリンや軽油に頼らなくなるため、CO2の排出量が激減します。
また、CO2削減による地球温暖化防止だけでなく、石油の輸入に必要だった資金を国内で有効に活用することができるため、国内経済の活性化にもつながることが期待できます。
移動・運搬コストの低減
バスやタクシーの代金、宅配便の代金などには、自動車の燃料費が含まれています。さらにトラックでの輸送コストは、様々な製品やサービスの代金に含まれています。 これらの商業車両のEV化が進むことで燃料費に関するコストが大幅に削減されますので、製品やサービスの価格低減や、あるいはそこで働く人たちのお給料アップにつながる可能性があります。
蓄電装置としてのEV
将来的には太陽光や風力などの自然エネルギーの普及が見込まれます。晴れの日や風の強い日は余るほど発電されても、曇ったり風が止むと電力が不足する、というように自然エネルギーは不安定さが問題になると言われています。
これを解決するためには、余った電力を蓄えておき、不足したときに蓄えた電力を放出する仕組みが必要です。
一方、EVは大容量のバッテリーを搭載しています。例えば、24kWhのバッテリーは、一般的な家庭の2日分の使用電力量に相当します。将来的にEVが普及すると、街中にこのような大容量のバッテリーが点在していることになります。
このEVの蓄電能力を活用し、自然エネルギーの不安定さを解消し、地域の電力を安定的に供給できるようにする、という構想があります。これをV2G(Vehicle to Grid:EVの蓄電池に蓄積されている電気エネルギーを電力系統に供給すること)と言います。
このように、クリーンなEVが普及することで、クリーンな自然エネルギーの普及が促進されるという、相乗効果が期待されています。
コラム:動き始めたEVの電源利用
東日本大震災以降、この大容量バッテリーを緊急時や野外での電源として活用するという、いわばEVを「動く電源」として活用する、という考え方が広まっています。一部のメーカーでは早速2011年内に、バッテリーの電力を炊飯器や洗濯機などの家電で使えるようにする装置を販売する予定です。
のど自慢大会の野外電源としてEVを使用したという報道もありました。
V2Gはまだ未来の話ですが、一軒の家に対して同様のこと(太陽光発電の電力をEVに蓄えて、夜間に家庭で使う)をできるようにする研究が行われています。これをV2H(Vehicle to Home:EVの蓄電池に蓄積されている電気エネルギー を家庭に供給すること)と言います。
現在、V2Hの実現に向けて、様々な住宅メーカーや電器メーカー、自動車メーカーが入り乱れて研究開発を行っています。
今後建てられる家は、太陽光発電とEVを一緒に使うことを前提とした設計が一般的になることでしょう。
参考情報:
三菱自動車、新世代電気自動車『i-MiEV』を大幅に改良(三菱自動車)
「日産リーフ」の駆動用バッテリーから一般住宅へ電力供給するシステムを公開(日産自動車)